頭の悪い人は、
頭のいい人が考えて、はじめからだめにきまっているような試みを、
一生懸命につづけている。
やっと、それがだめとわかるころには、
しかしたいてい何かしらだめでない
他のものの糸口を取り上げている。
そうしてそれは、
そのはじめからだめな試みをあえてしなかった人には
決して手に触れる機会のないような糸口である場合も少なくない。
 
自然は書卓の前で手をつかねて
空中に絵を描いている人からは逃げ出して、
自然のまん中へ赤裸で飛び込んで来る人にのみ
その神秘の扉を開いて見せるからである。
 
 
- 寺田寅彦「科学者とあたま」より